Respect Blog リスペクトブログ

マーケティング・コンサルティング・サイト制作
ITベンチャー企業の社員がノウハウや
仕事の試みを毎週綴ります

20180420_01_アートディレクター

30代デザイナー定年説は本当か?35歳の元デザイナーが思うこと

こんにちは、アートディレクターのHです。

もともとはグラフィックデザイナーで、現在はアートディレクターとして働いています。
現在35歳。新卒で関東の制作会社に入社し、Uターンで仙台に戻り、株式会社リスペクトに入社しました。職歴はグラフィックデザイナーを7~8年、アートディレクターを5~6年といったところです。(2018年4月現在)

今回はちまたでもよく耳にする「デザイナー30代定年説」について、デザイナー経験者として、私の思うことを紹介したいと思います。

私は幼少期からデザイナーという職業に憧れ、中学校を卒業後、デザイン学科のあった高専に進みました。高専を卒業してから大学に編入し、デザインを学ぶことトータル7年。ようやく念願叶ってデザイナーになれたのに、「30代で定年……」という記事を読んだ時の絶望感たるや……。

 

30代デザイナー定年説は本当か?

20180420_02_アートディレクター

早速ですが、私は「デザイナー30代定年説」は本当だと思っています。なぜなら、生涯「デザインオペレーションだけ」やっていくことは難しいからです。私が思う30代で定年を迎えてしまうデザイナーとは、「クリエイティブディレクターやアートディレクターが企画したコンセプトに基づいて、または営業がヒアリングしてきたお客様のご要望に基づいて、“表面的”なデザインをする人」を指しています。

そもそも、Wikipediaで「デザイン」の意味を調べてみると

具体的な問題を解決するために思考・概念の組み立てを行い、それを様々な媒体に応じて表現すること

と書かれています。つまり、課題解決を目指した企画をしない時点でデザイナーでもないのです。私自身もそうだったのですが、“表面的”なデザインしかできていないデザイナー、意外と多いのではないでしょうか?

とはいえ、最初から完璧にデザインも、企画も、ディレクションもできるスーパーマンはいません。そのため、多くのデザイン事務所や制作会社では「デザイナー」と「ディレクター」に役割がわかれているのだと私は考えています。

 

なぜデザイナーには定年説があるのか

20180420_03_アートディレクター

デザインオペレーションは意外と底が浅い技術です。技術的には1~3年で十分一人前のデザイナーになれるでしょう。技術的に一人前のデザイナーになると、多くの案件を任され、忙しい日々がスタートしますが、ここでデザインオペレーションだけで良しとするか、よりキャリアアップを目指していくかどうかは本人次第のところが多いように感じます。

若手からベテランまでたくさんのデザイナーがいる中で、差別化できる要素がなければキャリアアップし続けることはできません。さらに、競合するのは同じデザイナーだけではありません。AIの発達、働き方の多様性によるクラウドワーカーの増強、グローバル化など、今ある仕事が在り続ける保証はないのです。
定年説があるのは、デザイナーだけではないと思っています。どんな職種でも「1つの技術力だけ」で一生食べていく、というのは難しいのではないでしょうか。

 

「表現だけ」では価値がない

「表現をする」という工程は、私たちがお客様に提供すべき価値のうち、ほんの一握りです。デザインを依頼してくださるお客様は「デザインされたモノ」を使って、集客やブランディング、認知拡大を図りたい、などの願望を持っています。そのため、きれいなだけの装飾が施されたモノがあっても価値はありません。

そもそも、お客様の願望を叶えるために課題となっていることは何なのか、真のターゲットは誰で、どんなニーズをもっているのか、それに応えるためにはどんな施策が必要なのか……。この解を出すことがデザインの価値の大部分を占めます。

 

デザインの一般的なワークフロー

1.お客様の課題整理、市場調査・分析
「売上を上げたい」「集客力を高めたい」といったお客様の課題を聞き出し、整理します。さらにお客様の事業、該当する市場や業界に関しても調査分析を行います。

2.解決方法の企画立案・方針決定
目標・成果を達成するために、事業やサービスの価値をいつ、どこで、誰に、どのように伝えるのか……という企画と方針を定めます。ここで発揮されるのがアイデアの力です。ユーザーにより強い印象を与え、覚えてもらう・選んでもらうためには、革新的でユニークな企画が求められます。

3.ゴールを定める
ここで改めて目標と成果を明確にします。効果検証・改善をするための定量的指標となるKPIはもちろん、ユーザーにどのような感動を与え、行動を促すのかという定性的なゴール設計も必要です。

4.つくる・品質を守る
ここでようやく「デザイン、表現をする」フェーズに入ります。立てた企画や方針に基づき、ゴールを目指した表現計画を立て、一つひとつの要素を組み上げていきます。表現の責任者として品質を担保する責任もあります。

目標・成果を達成するためには、他にもユーザーとのインターフェイスとなるコーディングや印刷、接点を拡大するプレスリリース、広告運用などまだまだ多くの工程があります。「デザイナーは表現だけすればいい」という姿勢ではお客様の課題を解決する一翼を担うことはできません。

 

デザイナーのキャリアステップ

私は30代になる頃、デザイナーからアートディレクターにキャリアアップをしました。また、並行してデザイナー部門のマネージャーとしてスタッフの教育や部門の運営を行ってきました。(現在は別の方に引き継いでいます)ここからはデザイナーのキャリアステップについて紹介したいと思います。

20180420_04_アートディレクター

1.アートディレクターになる

Wikipediaでアートディレクションの意味を調べてみると

主に視覚的表現手段を計画し、総括、監督する。案件のプランニングからプレゼンテーション、撮影ディレクション、デザインなどクリエイティブにおけるクオリティーコントロール全般を行う

と書かれています。

つまり、アートディレクターの役割は、デザイナーやエンジニアが表現するためのコンセプトを示すことと、品質を担保することです。お客様の課題を解決する戦略を立てるのがクリエイティブディレクター、それを実現するための(表現やプロモーション的な)コンセプトを考え、制作チームの指揮をとるのがアートディレクター、上流工程を踏まえてターゲットの心を動かす企画設計でビジュアルをつくりだすのがデザイナーというフォーメーションでしょうか。

 

2.マネージャーになる

企業に所属するデザイナーの場合、よくあるキャリアステップです。デザイナーの育成・スキルアップのための研修・教育プログラムを考えたり、タスクや勤怠の管理・指導をします。中小企業ではプレイングマネージャーとして、案件の進行とマネジメントを両立するケースがほとんどです。しかし、マネージャーにも階層があり、上に行くほどプレイングの比率を下げる必要があります。ディレクションは「チームの指揮をとる」という側面もあるので、マネジメント経験はディレクターとしての成長作用もあるように思います。ただし、「クリエイターであり続けたい」という人にとってはマネージャーとしてのキャリアアップへの葛藤が生まれがちです。

 

3.独立してフリーランス・経営者になる

デザイナーで多いのが独立してフリーランスになるキャリアステップです。働き方、請ける案件の自由度が高く、成功すればより高い収入を得ることができます。自分自身が商品になるため、強みや差別化要素をお客様に売り込み、仕事を獲得する必要があります。
また、一人とはいえ、事業を営むという意味では経営者でもあります。事業計画を立て、どのように収入を得るのか考えなくてはいけません。事業がうまくいけば、社員を雇い、法人化し、より収益を高めていくこともできます。

 

4.スペシャリストになる

デザイナーの中でもほんの一握り、スペシャリストとして1つの職種を究める人もいます。その人ならではの表現手法があって、依頼主はそのテイストを求めて、指名をするのです。作家性によるブランディングなので、どちらかというとアーティスト感が強いようにも思います。

 

5.総合的なクリエイターになる

これは完全に私の所感です。かつ、誤解を恐れずに言いますが……デザイナーには根暗・コミュ症・オタクな人が多いように思います。かく言う私自身も、人前に出たり、知らない人と話をするのがとても苦手です。そのため、ディレクションの中に含まれるお客様折衝や、クリエイターのマネジメントには苦手意識を感じています。さらに、「手を動かす・自分自身がデザインを生み出すことをやめたくない」という思いを持つデザイナーもたくさんいます。
そういった思考で活躍している人の特徴としては、複数のスキルを修得して、自身の価値を高めているなと感じます。コーディングやプログラミング、マーケティングやライティングなど、能力を伸ばせる範囲は多岐に渡ります。

 

デザイナーのキャリア形成に必要なこと

実は私が働いている株式会社リスペクトには「アートディレクター」という職種はありませんでした。おっかなびっくりではありましたが「ディレクションをやらせてください…」と申し出たところ、すんなりOKをもらうことができました。自分から立候補はしたものの、うまくいかないことばかりで、たくさん苦労もしましたし、今もまだ道半ばです。ここでは、私が思うデザイナーのキャリア形成に必要なことを紹介していきたいと思います。

 

1.1に勉強、2に勉強

当たり前のことですが、できないことをできるようになるには「勉強」をするしかありません。まずは「自分の知識を増やす」ための勉強です。例えばWebサイトを使ったマーケティングによって課題を解決する場合、サイト制作のイロハを知らなくては、お客様に提案することも、クリエイターに指示をすることもできません。紙もの、動画、メディア、プロダクト、映像、グラフィック、デジタル、イベント、プロモーションなど、商材もソリューションも無限にあるので大変です。

 

2.3に勉強、4に勉強

何度も馬鹿みたいにすみません。でも、もう一つ大事な勉強があります。それは「お客様のことを知る」勉強です。リスペクトの場合は「BtoB企業のマーケティング」を得意としているため、お客様の業界・事業はバラバラです。しかも、BtoB事業のため素人にはとてもわかりにくいことが多いです。お客様の課題を解決するための施策を企画するためには、その業界・事業のことをよく知らなくてはいけません。そのため、新しい案件が始まる度に大量のインプットをしなくてはならないのです。

 

3.自分のキャリアは自分で築く

マネージャーもしているので、面談などをしていると「もっと給料を上げてほしい」と言われることがあります。気持ちもよくわかるのですが、いくらデザイナー歴が長くても、パフォーマンスが変わらなければ 評価が上がることはありません。
ではどうすればキャリアアップができるのか。自信がなくても「やりたい」と手を上げてみる、苦手なことにも挑戦してみる、そうすることでデザイナーとしてはもちろん、ビジネスマンとしての能力も高まっていくのではないでしょうか。

 

終わりに

私はデザインにもクリエイティブにも「正解はない」と考えています。だからこそ、より良い解を出せる自分になるよう、成長し続けなくてはいけません。年齢のせいなのか…正直、成長の鈍化を感じています。新しいことに挑戦することがきついな、と思うこともあります。
それでも……今までできなかったことができるようになった時、お客様の期待を超える提案ができた時、みんなでつくったクリエイティブによって成果を出せた時、本当に嬉しくやりがいを感じます。クリエイティブっていいですよね!!!

20180420_05_アートディレクター